現在位置

  1. トップページ
  2. 原子力規制委員会について
  3. 原子力規制委員会関連
  4. 講演・挨拶等
  5. 山中委員長職員訓示(東京電力・福島第一原子力発電所の事故から12年にあたって)

山中委員長職員訓示(東京電力・福島第一原子力発電所の事故から12年にあたって)

令和5年03月10日
原子力規制委員会委員長 山中 伸介

 東日本大震災、そして東京電力・福島第一原子力発電所の事故の発生から12年が経ちました。
「福島を決して忘れない」、私のこの強い気持ちは、いっときたりとも揺らいだことはありません。原子力規制委員会・原子力規制庁は、福島第一原子力発電所の事故の教訓と反省を、決して忘れてはいけません。
本日は、皆さんと事故への想いを共にし、東日本大震災当時、私自身が何を感じ、何を考えたのかをお話しし、皆さんに期待することを述べたいと思います。

 あの事故は、18歳で大学に入学して以降、一貫して原子力に携わってきた私にとって痛恨の極みであり、事故直後からかなり長い時間、後悔と反省の日々が続きました。
しかし「科学技術で起こした失敗を、科学技術によって贖う(あがなう)」、これこそが、自分がなすべきことではないかと、気持ちを奮い立たせようとした記憶があります。当時、私は大学で、若い技術者、科学者を育てることや、原子力の安全に役に立つ研究成果を皆とともに出していくことなどによって、福島の復興に少しでもお役に立ちたいと願っておりました。そののち何年かして原子力規制委員会委員への就任の打診を受けた時、また、委員長への打診を受けた時にも、私は何の迷いもありませんでした。
 原子力規制庁の職員の皆さんは、どのような想いで、日々、原子力規制という仕事に関わっていらっしゃいますでしょうか。

 本日は、特に2つのことをお伝えしたいと思います。

 1つは、原子力の技術に関わるには、本当に長い時間の感覚を持つ必要があるということです。
原子力施設は数10年にわたって使われる可能性がありますし、その後の、廃止措置にもやはり数10年の歳月がかかります。さらに、そこから出てくる廃棄物、これには数100年から数万年もの期間を考える必要があるものも含まれます。
我々は、将来をどこまで見通して仕事をして行けば良いのでしょうか?
この問いへの答えは簡単ではありません。しかしながらそのヒントは、先人たちへの教えや、過去から現在に至るまでの痕跡から見つけることができると思います。
例えばローマでは、2000年以上も前に造られた上水道が今でも利用されているものがあります。日本でも、およそ400年前に造られた下水道が、実際に大阪で使われています。
このように長い時間使われているものを創った人々は、きっと将来の子々孫々のことを想い、しっかりと考えてものづくりをし、続く人々もそうした想いや考えをきっちりと受け継いで維持管理してきたのでしょう。
きっとそうして今に繋がるものづくりができたのだろうと思います。
原子力は、いくつもの世代を超えていくような、本当に長いスパンで考えなければならない技術です。どのように前の世代から受け継ぎ、どのように将来に引き継ぐべきなのか。先人の教えから現代の最先端の科学技術に至るまで、その感度を磨きながら、原子力という技術に関する安全規制をどのように創り、維持し、見直していけば良いのかについて、この機会にじっくり考えてみて頂ければと思っています。

 2つ目にお話をしたいのが「科学技術とは人を想って創られたものであるべき」ということです。
あの福島第一原子力発電所の事故の当時に考えたのは、科学技術は本来どうあるべきなのか?ということでした。
様々な科学技術、利点もあるが、扱いを間違えれば大きな危険を与える可能性のあるものも多く存在します。原子力は、その典型かもしれません。
利点や効率を追い求めるあまり、そうした危険を見落とす、あるいは敢えて目をそらすようなことがあってはいけません。これは私たちが決して忘れてはいけないことです。
そうした過ちを起こさないためのあるべき姿、それが「技術とは人を想って創られたものであるべき」ということだと、私は考えています。
そして原子力規制委員会・原子力規制庁の行う安全規制は、科学的な知見に基づき、技術を本来あるべき姿に近づけていくための仕事であると考えています。
規制に直接関わる皆さんには、やはり科学的、技術的に判断し原子力の安全性向上に様々な立場から励んで頂きたいと思います。
それぞれの思想や信条、この多様性は互いに尊重しつつ、原子力施設の審査、検査、研究や、放射線防護に関わる職員は勿論のこと、人事、会計、総務、法務など、他のすべての職員にも、常にそのような視点で職務を遂行して頂きたいと思っています。

 あの事故の発生から12年が経ちました。あのような事故は2度と起こさないために、原子力に100パーセントの安全は無いということを肝に命じながら、常に科学技術に基づいた判断をしてください。
「原子力の確かな規制を通じて、人と環境を守る」という初心を今一度噛みしめて、大きな視点で日々の業務を見つめ直してください。
確かな規制のために、相手が誰であっても、衝突を恐れず声を上げる勇気を持ってください。
そうして将来を見通し、人を思い、切磋琢磨する集団を目指しましょう。

 以上、私の訓示といたします。


ページ
トップへ