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田中委員長職員訓示(福島第一原子力事故から2年にあたって)

2013年3月11日
原子力規制委員会委員長 田中俊一

今日は東日本大震災から2年になります。午後には政府の追悼式典もありますが、皆様とともに震災の犠牲になられた方々に黙祷を捧げ、皆さんと一緒に追悼の気持ちを深くしていきたいと思います。さて今日、3月11日は東京電力福島原子力発電所事故から2年という日でもあります。事故の反省に立って新設された我々、原子力規制委員会・原子力規制庁の原点を確認する日でもありますので、こうして皆さんにお集まりいただきました。昨年9月19日の発足から、もうすぐ半年になります。私はこれまでの人生で最も忙しい時間を過ごしていると思っています。とにかく全力で走って参りました。他の委員の皆さんも職員の皆さんも、私どもに課せられた責任を果たすために、私以上に全力を尽くしていただいていることを理解しています。この機会に、改めて皆さまの努力に敬意を払うとともに心からお礼を申しあげます。

発足以来、重要な瞬間が絶え間なく続き、皆さんの疲れもピークに達してきているはずです。しかし、この状況はこれからもしばらくは続きますのでくれぐれも体には気をつけていただくようお願いいたします。

ご存知の通り、私は事故発生後間もなく、一昨年の4月から、福島の除染に通っていました。規制委員会に来てからは、福島での活動はできなくなりましたが、今も福島の人たちと電話やメールでのつながりもありますし、いつも福島が原点だと思っています。地震や津波の影響だけではなく、原子力事故が原因で、今なお厳しい生活を送っている人たちが数多くいらっしゃいます。事故から2年たちましたが、環境に放出された放射能のためにふるさとに戻れない方が未だに15万人を超えています。また、放射線被ばくに対する健康不安を抱きながらの生活を余技なくされている方も少なくありません。こうした状況を踏まえて、3月6日に東京電力福島第一原子力発電所の事故による住民の健康管理のあり方について提言を出しました。この提言を確実に実現させることは言うまでもないことですが、事故によって多くの方が厳しい生活にさらされているという現実をしっかり受け止めて、引き続き最大限の努力をする覚悟を新たにしたいと思います。

この東京のオフィスで日々忙しい業務に追われていると、福島の現状に直に接する機会は少ないと思いますので、福島の現実の一端として浪江小学校の今を紹介させていただきます。浪江町は、未だに町全体がほぼ期間困難区域にあり、役場をはじめ多くの住民は圏内の二本松市へ移転し、浪江小学校も、二本松市の廃校になった校舎を利用して子供達の教育を続けています。小学校という地域のコミュニティをつなぐ柱を維持しなければならないと、先生達は新入学児童を集める努力をしてきたそうです。しかし、来年度の入学者はゼロで、およそ600人いた児童も、18人になってしまうということです。

実は先週、この浪江小学校の校長先生からメールをいただきました。【避難生活が二年の長きを超えようとは、当初は予想だにしなかったことであります。】という書き出しで始まるメールです。許可をいただいたので、一部を紹介したいと思います。
【周りが以前の日常を取り戻している中、いまだに浪江の人々は奇妙な小康状態の中にいます。子どもたちも大人同様に、これから十年、二十年後に、自分や自分の周りの世界がどうなっているのかを想像することの大変さに直面しています。大人が解決しなければならない問題を、未来への課題として先送りしてしまうことのないように願わざるを得ません。】ということであります。
この「奇妙な小康状態の中にいる」という表現に私は言葉を失いました。普段は、目の前に子ども達がいて忙しくしている時は、楽しい時間もあるでしょうが、ふとした時に厳しい現実と将来への絶望感に襲われるのではないかと想像します。先生達は、浪江町の産業、文化、伝統を教える「ふるさとなみえ科」という授業を作り、子供たちにふるさとへの思いを育み、これからの困難を乗り越えてもらうための取り組みをしているそうです。

福島は春の訪れとともに、梅、桜、桃の花が一斉に咲き、山では、コゴミに始まり、ワラビやゼンマイ、タラの芽など、様々な山菜が芽を吹きます。また、川にはアユやウグイが泳ぎ回ります。本来ふるさとへの思いというのは、子どもたちが山や川でこうした自然と直に接触することによって育まれるものだと思います。しかし、期間困難区域にあるため、浪江の子どもたちは一時帰宅も許可されず、この2年間自分のふるさとを見ることすらできないでいます。こうしたお話を聞くにつけ、原子力事故の罪が如何に重いかということを改めて感じざるを得ません。

原子力規制委員会、原子力規制庁の使命は、東京電力福島第一原子力発電所のような事故を二度と起こさせないこと。原子力事故から人の健康と環境を守ることであります。昨年9月19日以来、私たちに課せられた使命を達成するため懸命の努力を重ねて参りました。私たちの仕事に対する様々なご意見がありますが、私たちの取り組みにゴールはありません。3月11日を迎え、私たちの前には普通の生活をしている国民がいるのだということを改めて思い起こし、原子力規制委員会、原子力規制庁の原点を振り返り、重い責任に誇りを持ち、国民から信頼される組織を目指して最善を尽くすことを皆さんとともに原子力事故の被災者と国民の皆様に約束させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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